CREATOR ECONOMY · COMPANIES
ISSUE 01 / 2026
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Influence Media Partners
音楽企業
Influence Media Partners
2019年、Lylette Pizarro(Cornell大学卒・旧RPM GRP)が創業した音楽ファンド。2022年2月にBlackRock+WMGが7.5億ドルを共同出資[1][7]し、現代ポップ・ヒップホップの「モダン・エバーグリーン」楽曲に特化。DJ Khaled 9ケタ取引(2025年4月)[3]に代表される「NIL×カタログ×JV」のトリプル構造が業界最先端の音楽投資モデルとして注目される。
3行サマリ
- 規模: 2019年創業。BlackRock+WMG共同ファンドのコミットメント7.5億ドル(2022年)[7]。2025年1月の3.6億ドルプライベートABS発行[2]後、推定実質運用資産1B超。約30アーティスト・30本超の投資案件を展開(2025年時点)。
- 秀逸さの本質: 単なるカタログ購入にとどまらず、NIL(名前・肖像・ライクネス)権とJV(合弁)設立を組み合わせた「アクティブIPマネジメント」モデル。2025年4月のDJ Khaled取引では「カタログ+NIL+JV2本」という業界で最も複雑な包括型アーティスト取引を実現した。
- 派生効果: Hipgnosis等の「高倍率カタログ購入→金利上昇で評価棄損」という業界課題を乗り越え、SLANGレーベル(2024年)設立でカタログ取得→新作リリース→カタログ再評価のサイクル創造という新たな音楽運用の地平を開いた。女性・多様性アーティスト特化というESG整合性でBlackRock資金を獲得したモデルは、インパクト投資と音楽の接続点として業界標準を更新しつつある。
A. 決算・AUM(運用資産規模)
ファンド構造と資金調達
| フェーズ | 時期 | 内容 | 金額 |
| ブリッジファイナンス | 2018年 | Morgan Stanleyを活用し、Jeff Bhasker・Shane McAnally等のカタログ取得 | 非公開 |
| BlackRock+WMG共同ファンド | 2022年2月 | コミットメント設立。モダン・エバーグリーン投資に特化 | 7.5億ドル[1][7] |
| プライベートABS発行 | 2025年1月 | 保有カタログをコラテラルとする私募ABS(Goldman Sachs・Truist共同) | 3.6億ドル[2] |
| DJ Khaled取引 | 2025年4月 | 14アルバム(レコーデッド+パブリッシング)+NIL+JV2本 | 9ケタ(100M超)[3] |
推定AUM(2025年): コミットメント7.5億ドル+ABS活用分3.6億ドル=実質運用資産1B超。カタログ総時価は1.2〜2B規模(推定)と推計。
ファンドストラクチャー
| GP(ゼネラルパートナー) | Influence Media Partners(投資判断を担当) |
| 主要LP | BlackRock Alternative Investors・Warner Music Group・機関投資家 |
| WMGの役割 | 単なるLP投資者ではなく「戦略パートナー」としてA&R・マーケティング・ライセンス・ディストリビューションインフラを提供 |
| ファンド形態 | コミットメント型クローズドエンドファンド(推定)。投資期間3〜5年・運用期間10年前後のPE型ストラクチャー |
主要カタログ取得事例
| アーティスト | 内容 | 時期 | 金額 |
| Future | パブリッシングカタログ(612曲・2004〜2020年)[8] | 2022年9月 | 8ケタ(10M超) |
| Enrique Iglesias | レコーデッド・マスター+パブリッシング(〜2021年)+NIL | 2023年12月 | 9ケタ(100M超)[5] |
| Logic | 音楽カタログ | 2023年 | 非公開 |
| Blake Shelton | カントリー・カタログ | 2022年〜 | 非公開 |
| Julia Michaels | ソングライター・カタログ | 非公開 | 非公開 |
| The Stereotypes | プロデューサー・カタログ(Bruno Mars等提供楽曲) | 非公開 | 非公開 |
| DJ Khaled | 14スタジオアルバム(レコーデッド+パブリッシング)+NIL+JV2本 | 2025年4月 | 9ケタ(100M超)[3] |
収益モデル(推定)
| 収益源 | 内容 | 比率(推定) |
| ロイヤリティ収入 | 保有楽曲のストリーミング・ラジオ・シンク収益 | 60〜70% |
| NIL/タイアップ | アーティストのCM・ブランド起用等 | 10〜15% |
| カタログ売却益 | 取得したカタログのキャピタルゲイン | 15〜20% |
| SLANGレーベル | 新規アーティストの前払い・アドバンス回収 | 5〜10% |
B. 事業構造
3つの柱:カタログ投資 × NIL × SLANGレーベル
1. カタログ(著作権・マスター権)投資
Influence Mediaの主軸。「モダン・エバーグリーン」(10億回以上のストリーミングを持つ現代楽曲)を中心に投資。Hipgnosis等が1970〜80年代のレジェンドカタログを扱うのとは対照的に、2000年代後半〜2020年代の現代ポップ・ヒップホップが中心。カタログ取得後に「WMGインフラ×BlackRockの財務力×Influence Mediaのアクティブ運用」で価値を最大化するシンクライセンス・ブランド活用が差別化要素。
2. NIL(名前・肖像・ライクネス)投資
Enrique Iglesias取引(2023年)がInfluence初のNIL案件。2025年DJ Khaled取引ではNILに加えてJV(合弁)2本も設立。アーティストの名前・顔・声を使った商品許諾料・CMエンドースメントのロイヤリティ・ブランドコラボ製品・デジタルライクネス使用権(新領域)が収益化手法。現役アーティストが今後の活動で価値を高め続ける点が過去のレジェンドカタログと根本的に異なる。
3. SLANGレーベル(2024年7月〜)
2024年7月発表の独立フロントラインレーベル。Rene McLean(Founding Partner)が主導。Will Smith(4度のGrammy受賞)が第1弾アーティストとしてサイン。他にCamper(Grammy受賞プロデューサー)・30 Roc(Diamond認定プロデューサー)等をRoster化。BlackRockのバランスシートを活用した競争力あるA&R前払いが可能という競争優位を持つ。カタログ取得→SLANGで新作リリース→カタログ再評価というサイクルが新しい音楽マネジメントのモデルを示す。
ABS(資産担保証券)発行の構造
2025年1月の3.6億ドルABSは音楽ファンドにとって画期的なファイナンス手法:
- 保有カタログ(楽曲著作権・マスター権)をSPV(特別目的会社)に移管
- SPVがABSを発行し、カタログからのロイヤリティキャッシュフローを償還原資とする
- 投資家はNuveen・PPM America・Aflac・Pacific Life・HPS Investment Partners等の機関投資家
- Goldman Sachs・Truist SecuritiesがCo-Structuring Agent、BlackRockがJoint Placement Agentとして信頼性を担保
PEファンドのコールドキャピタルではなく「IPキャッシュフロー担保の債務ファイナンス」という手法は、音楽の「安定キャッシュフロー資産」としての側面を最大活用するもの。Primary Wave・Hipgnosisが使ったファンド方式とは異なるファイナンスの進化形。
C. 組織構造
創業者・経営陣
| 人物 | 役職 | 経歴 |
| Lylette Pizarro |
Founder & Co-Managing Partner |
Cornell大学卒。10年間RPM GRPでC-Suiteへの音楽戦略・ライセンス・タレント管理を担当(Beyoncé、Katy Perry、Kevin Hart、DJ Khaled、Michael Jackson Estate、David Bowieのプログラム等)。NAACP・AdColor等受賞。 |
| Rene McLean |
Partner & Founding Advisor / SLANG CEO |
Missy Elliot・Busta Rhymes・Eminem・Pharrell・Timbaland等を手がけたマネジメント・レーベル経営者。Kelis・LMFAO・Cam'ronをキャリア最高作品に導いた実績を持つ。 |
戦略パートナー
| パートナー | 役割 |
| BlackRock Alternative Investors | 主要LP兼戦略共同投資家。7.5億ドル中の主要出資者。3.6億ドルABS発行でもJoint Placement Agent |
| Warner Music Group | 戦略パートナー(LP兼オペレーションパートナー)。A&R・ライセンシング・マーケティング・ディストリビューションインフラを提供 |
| Goldman Sachs | ABS Co-Structuring Agent(2025年3.6億ドルABS取引のリードエージェント) |
D. 業界における位置づけ
音楽投資市場でのポジション
| ファンド | 運用資産(推定) | 特徴 |
| Primary Wave | 7B超 | 古典的レジェンドカタログ(Prince/Whitney等)+ 体験経済 |
| Hipgnosis | 約20億ドル(調整中) | 古典的カタログ、金利上昇で苦戦中 |
| Concord | 10B超 | プロダクションミュージック・中古カタログ |
| Reservoir Media | 3B超 | 独立系公開会社(NASDAQ: RSVR) |
| Influence Media | 1B超(推定) | 現代ポップ・ヒップホップ・女性/多様性・NIL特化 |
秀逸さの本質
- 現役アーティストへの投資という差別化: 他社が手がける「亡くなったレジェンドのカタログ」ではなく、FutureやDJ Khaledのような現役スターに投資することで、アーティストの今後の活動がカタログ価値を押し上げる好循環を設計。
- NIL×カタログ×JVのトリプル構造: 2025年4月のDJ Khaled取引が示す「カタログ購入+NIL+JV2本」という包括的取引モデルは、アーティストを「売却した相手」でなく「ビジネスパートナー」として継続関係に置く。
- BlackRock+WMGの二重インフラ: 世界最大の資産運用会社の財務力×大手メジャーレーベルのディストリビューション・マーケティング力という組み合わせは、他の独立系音楽ファンドが持ち得ない競争優位。
- ESG整合性による機関投資家資金の獲得: 「女性・多様性アーティスト特化」という投資哲学でBlackRockのESG重視資金を獲得したモデルは、インパクト投資と音楽投資の接続点として業界での再現性が高い。
E. 主要エピソード
2022年2月
BlackRock+WMG 7.5億ドル提携発表 — 業界初のESGフレーム音楽投資
発表時点で既に3億ドル超をデプロイ済み(20本超の投資)。BlackRockとWMGの両社が「女性・多様性アーティストへの投資」を公表したことは、業界初のESGフレームでの音楽投資として大きな注目を集めた。Fast Company・Variety・Billboard・MBWが一斉に報道し、音楽投資の新たなスタンダードを提示した。
2022年9月
Future パブリッシングカタログ取得 — 「売却ではなくパートナーシップ」の新モデル
Grammy受賞ラッパーFutureの612曲(2004〜2020年)パブリッシングカタログを8ケタで取得。Future本人が「カタログを売ることでなく、パートナーを得ることが目的」と発言し、単なる売却ではなくアーティストとビジネス関係を維持する新しいIP投資モデルを示した。
2023年12月
Enrique Iglesias 9ケタ + 業界初のNIL取引
スペイン語ポップのグローバルスーパースターEnrique Iglesias(推定2.5億枚以上の販売枚数)のpre-2021年レコーデッドマスター+UMGロイヤリティ+パブリッシング+NILを9ケタ(100M超)で取得。Influence初のNIL案件として業界の注目を集め、「現役アーティストのライクネスにも投資できる」モデルを業界に提示した。
2024年7月
SLANGレーベル設立 + Will Smith第1弾サイン
Rene McLeanとのSLANG設立を発表し、同時にWill Smith(4度のGrammy受賞・アカデミー賞受賞)がSLANG第1弾アーティストとしてサインしたことを発表。2022年以降の公の場から離れていたSmithの音楽活動復帰をInfluence/SLANGがサポートする形となり、「カタログ投資にとどまらないレーベル機能」という業態拡張を示した。
2025年1月
3.6億ドルプライベートABS発行 — 音楽キャッシュフローの資産証券化
音楽業界初レベルのプライベートABSを発行。保有カタログのキャッシュフローを担保に機関投資家(Nuveen・Aflac・Pacific Life等)から3.6億ドルを調達
[2]。コールドキャピタル(PEファンド)ではなく「キャッシュフロー担保の債務ファイナンス」という手法は、音楽の「安定キャッシュフロー資産」としての側面を最大活用するもので、Hipgnosisが使ったファンド方式とは根本的に異なるファイナンスの進化形。
2025年4月29日
DJ Khaled 9ケタ + 2 JV設立 — 業界最複雑な包括型アーティスト取引
Khaled保有の14スタジオアルバム(レコーデッド+パブリッシング)+NIL(特定カテゴリ独占ライセンス)を9ケタで取得。同時にコンテンツJV(Film/TV)とコマーシャルベンチャーJVの2本を設立。「カタログ購入+NIL+JV」のトリプル構造は、アーティストを単なる売主ではなく長期ビジネスパートナーとして関係設計した音楽業界で最も複雑な包括型取引として記録された。
References — 数値の出典
- BlackRock+WMG+Influence Media提携発表 — PR Newswire
- Influence Media 3.6億ドルABS — Variety 2025
- DJ Khaled 9ケタ+2 JV — Variety
- Will Smith SLANG — Variety
- Enrique Iglesias カタログ売却 — Variety
- Lylette Pizarro創業者インタビュー — Hispanic Executive
- BlackRock+WMG 7.5億ドルファンド — MBW
- Future Sells Publishing Catalog (612 songs) — Variety