CREATOR ECONOMY · COMPANIES ISSUE 01 / 2026

アニメ 企業
サイエンスSARU

湯浅政明・チェ・ウニョン共同設立の独立スタジオ——作家性重視・Adobe Animate導入・Netflix直接発注で日本アニメの「実験場」を担う

2013年、監督の湯浅政明とプロデューサー・アニメーターのチェ・ウニョンが東京・吉祥寺に共同設立。「SARU(猿)=人類に最も近い存在」という名称に込めた通り、大手スタジオとは異なる制作哲学を体現する。Adobe Animate(旧Flash)をフルデジタル制作フローに活用してコスト構造を刷新し、Netflixとの早期連携(2018年『DEVILMAN crybaby』)でグローバル直接発注モデルを確立。2020年に湯浅が代表取締役を退任してチェに経営を委ね、山田尚子監督を招聘して「外部有名監督を受け皿として制作する」モデルへ進化。文化庁メディア芸術祭大賞(2020年)を筆頭に芸術的評価は業界トップクラス。

A. 決算

財務概要

サイエンスSARUは非上場の独立スタジオであり、公開財務情報は限定的。従業員数は推定50〜100名規模(推定)(非公開)。主要収益源はアニメ制作受託・企画・著作権収益とみられる。

収益モデルの性格

収益タイプ内容特徴
グローバルプラットフォーム直接発注Netflix・HBO Max等からのオリジナルシリーズ受注フラットフィー(一括支払い)。放映後興行と切り離された収益
製作委員会参加NHK・フジTV等との国内共同制作版権収益を一部保持
劇場作品(海外配給連携)GKIDS(北米)等との配給契約GKIDSはアートアニメ特化の北米配給会社

B. 事業構造

「作家性重視」制作モデル

サイエンスSARUの制作モデルは「特定の監督の強い作家性を前面に出した作品」を中心に据える。大手スタジオが商業的確度を最優先するのに対し、同スタジオは「批評的威信でグローバルプラットフォームから直接発注を得る」独自の経路を確立している。英Guardianや米Varietyで頻繁に取り上げられる国際的批評家評価が、Netflix・GKIDSなどとの直接交渉を可能にする。

Adobe Animate活用の技術的優位

日本アニメ業界では「セル→デジタル移行はしたが実態は紙作業(ラフ→スキャン→着色)の継続」という非効率が続いていた。サイエンスSARUはチェ・ウニョン主導でAdobe Animate(旧Flash)によるフルデジタル制作フローを採用。Webブラウザ上での直接作画・編集環境を整備し、リモートワーク対応を早期に実現。Adobe社が公式ブログで「日本のアニメーション業界に刺激を与えるサイエンスSARUの新しい挑戦」として紹介し、技術的先進性が広く認知された。

主要作品とグローバルプラットフォーム連携

作品配信・放送先備考
DEVILMAN crybabyNetflix(全世界)2018Netflix完全オリジナル・全世界同時配信。永井豪原作リブート
映像研には手を出すな!NHK・各配信2020文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞
日本沈没2020Netflix2020Netflixオリジナル
平家物語フジTV・各配信2022山田尚子監督。Noitaminaフレーム
きみの色劇場→各配信2024山田尚子監督。GKIDS北米配給

C. 組織構造

創業者と現経営体制

氏名役割経歴
湯浅政明共同設立者・フリーランス監督(2020年退任後)1965年生。虫プロ→Production I.G→マッドハウスを経て2013年設立。米Adventure Timeゲスト監督(2013年)が設立のきっかけ
チェ・ウニョン共同設立者・現代表取締役(2020年3月〜)韓国出身のアニメーター・プロデューサー。Adobe Animate導入のドライバー。湯浅退任後の実務管理を引き継ぎ

スタジオ文化

少数精鋭で「作品ごとに外部アニメーターを集める」プロジェクト型制作スタイル。京都アニメーションが「社員制・技術継承・安定品質」を特徴とするのに対し、サイエンスSARUは「フリーランス活用・作家性・技術実験」というアンチテーゼ的モデルを採る。韓国・欧米の国際的アニメーターとの協業実績も豊富。

D. 業界における位置づけ

秀逸さの本質:「商業規模は中小だが批評的威信でグローバルプラットフォームから直接発注を得る」という経路の開拓。大手製作委員会依存からの自立と、フルデジタル制作による制作コスト構造の刷新が、独立スタジオとしての持続性を支えている。山田尚子招聘によって「スタジオが監督を育成する」京アニモデルや「監督がスタジオを創る」スタジオ地図モデルとは異なる「第三の形態」を示した。

ポストジブリ議論での位置づけ

湯浅政明は細田守・新海誠と並ぶ「日本の次世代アニメを牽引する監督」として語られる。ただし湯浅は商業的ヒットより芸術的実験を優先する傾向が強く、三者の中で最もアートハウス寄りのポジションを占める。この「批評的先進性」がNHK・Netflix・GKIDSという「評価眼のある」プラットフォームとの相性を生む。

E. 主要エピソード

2013年
Adventure Timeゲスト監督が設立の契機
米国の人気アニメシリーズ『Adventure Time』のゲスト監督に湯浅政明が招かれた。この国際交流体験が「日本のアニメ産業の外側でも通じる制作が可能だ」という確信につながり、チェ・ウニョンとのサイエンスSARU設立へと結実した。
2018年
DEVILMAN crybaby——Netflixオリジナルの日本アニメ初期事例
永井豪原作の『デビルマン』リブート。Netflixからの直接発注(オリジナルシリーズ)として制作された日本アニメの早期事例の一つ。過激な表現と社会批評をストレートに盛り込んだ内容がNetflixのグローバルオーディエンスに刺さり、国際批評で高評価を獲得。
2020年
映像研には手を出すな!——文化庁メディア芸術祭大賞受賞
大童澄瞳原作(小学館・ビッグコミックスピリッツ)のアニメ化。アニメ制作を「妄想と現実の融合」として描く自己言及的作品で、第24回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞。放送時期は湯浅の代表取締役退任(2020年3月25日)と重なった。
2020年3月
湯浅政明の経営退任——「監督は現場へ、経営はチェへ」
湯浅がサイエンスSARU代表取締役を退任し、後任にチェ・ウニョンが就いた。「創業者が現場監督として残りつつ経営から退く」という移行は、スタジオの商業的持続性と作家性の維持を両立しようとした試みと解釈されている。湯浅はフリーランス監督としてサイエンスSARUとの協業を継続。
2022〜2024年
山田尚子招聘——「第三の制作モデル」の確立
京アニ退社後の山田尚子が平家物語(2022年)・きみの色(2024年)をサイエンスSARUで制作。「スタジオが外部有名監督を招いて制作する」招聘監督モデルが確立された。きみの色はGKIDS北米配給となり、作家性重視スタジオと国際配給の連携を示した。
2020年〜
Adobe Animate導入——Adobeが公式ケーススタディとして発信
チェ・ウニョンによるAdobe Animate活用がAdobeの公式ブログで「日本のアニメーション業界に刺激を与えるサイエンスSARUの新しい挑戦」として紹介された。高コスト・属人的な紙作業中心の業界慣行に対する技術的アンチテーゼとして、業界内外での認知が広まった。
    References — 数値の出典
  1. サイエンスSARU — Wikipedia
  2. サイエンスSARU 公式サイト
  3. Adobe Blog — サイエンスSARUの新しい挑戦
  4. チェ・ウニョンに聞くSARUとFlashの関係 — CGWORLD
  5. Adobe Animateを活用した映像研制作術 — CGWORLD
  6. Devilman Crybaby — Wikipedia(英語版)
  7. 山田尚子が平家物語でサイエンスSARUへ — animationbusiness.info
  8. 湯浅政明 — Wikipedia