CREATOR ECONOMY · COMPANIES ISSUE 01 / 2026

アニメ企業
WIT STUDIO(ウィットスタジオ)

2012年に Production I.G から分社独立したアニメーション制作会社。親会社: 株式会社 IGポート(東証スタンダード 3791・保有比率66.6%)。『進撃の巨人』Season 1-3でブレイク後、Final Season を辞退して SPY×FAMILY という新大型IPを獲得。版権収益+282%という異常値[6]でIGポートグループの業績を牽引している。

3行サマリ

  1. 版権収益で突き抜ける「制作赤字×版権黒字」モデル: 2024年5月期は売上42億円・最終利益2億7,100万円(前期比+212%)[3]。制作部門は赤字継続も、SPY×FAMILY・ハイキュー!!の版権収益(IGポート版権利益+282%)[6]が全体を黒字化。
  2. 進撃の巨人辞退→SPY×FAMILY「正解」への転換: 2019年に収益性・スケジュール・新IP集中意欲からSeason 4制作を辞退。当初は批判を受けたが、SPY×FAMILY の版権収益急成長で「正解だった」と評価が定着。The ONE PIECE(Netflix)もMAPPA提携より先行して制作中。
  3. JOEN業界連合の設立: 2022年にCloverWorks・Aniplex・集英社と共同でJOEN(資本金1億円)を設立。制作スタジオが出版社・配信レーベルと対等に参加する新会社として、製作委員会外部での独自収益分配スキームを構築する業界的試みとして注目された。

A. 決算

WIT STUDIO 単体業績

年度(5月決算)売上高最終利益備考
2023年5月期37.4億円0.9億円SPY×FAMILY Season 1制作期
2024年5月期42.0億円(+12.3%)[3]2.71億円(+212%)[3]版権収益急増
2025年5月期推定45〜50億円非公開Season 3制作準備期

制作部門単独では赤字継続。版権・ライセンス収益が制作赤字を補填する構造

IGポート連結業績(WIT STUDIOの親会社)

年度連結売上高営業利益備考
2024年5月期118.41億円(+6.1%)[4]12.25億円(+23.6%)[4]過去最高利益
2025年5月期145.98億円(+23.3%)[5]増益SPY×FAMILY・ハイキュー等牽引
版権収益の急成長
2024年3Q時点でSPY×FAMILYがIGポートの版権売上構成比21.1%を占め、通期3億5,000万円超。「ハイキュー!!」劇場版(興行100億円超)(推計)と合わせ、版権全体が前年比+62.1%・版権営業利益+282.4%の急成長を記録[6]

B. 事業構造

収益モデル

  1. 制作収益(主要・赤字傾向): テレビアニメ・映画の制作受注。人件費・外注費の高騰により制作単体の採算は厳しい状況が継続
  2. 版権・ライセンス収益(成長ドライバー): 製作委員会参加タイトルからの二次利用収益。SPY×FAMILYがIGポートグループ全体の版権収益の中心
  3. 制作委託・共同制作(中間モデル): CloverWorks との SPY×FAMILY 共同制作、JOEN 経由のプロジェクト受注

主要作品ポートフォリオ

タイトル制作期間特記事項
進撃の巨人 Season 12013年会社設立初作品。Newtype 7冠
進撃の巨人 Season 22017年
進撃の巨人 Season 32018〜2019年WIT制作最終シーズン
カバネリの鉄血の城砦2016年オリジナル作品。Amazon配信
SPY×FAMILY Season 12022年CloverWorksと共同。版権収益の柱へ
SPY×FAMILY Season 22023年同上
SPY×FAMILY Season 32025年10月〜同上
THE ONE PIECE2024年〜Netflixオリジナル・リメイク版

なぜ進撃の巨人 Final Season を辞退したか

WIT STUDIOが Season 4(The Final Season)の制作を辞退した理由については複数の要因が指摘される:

結果的にWITはSPY×FAMILYという「新たな大型IP」を獲得し、進撃を手放したことが版権収益の観点では「正解」となった。

C. 組織構造

経営陣

代表取締役社長和田丈嗣(わだ じょうじ)(Production I.G 第6制作部出身。WIT STUDIO 設立者)

株主構成

株主保有比率
IGポート(株式会社)66.6%
その他(役員持株等)33.4%(推定)

拠点・設備

部門構成

IGポートグループ内での位置

IGポート(上場・3791)Production I.G(主力スタジオ)/ WIT STUDIO(版権収益最大貢献者) / Signal.MD(3DCG)/ IG Port America / その他関係会社

JOENの意義

2022年5月30日設立。CloverWorks(Aniplex子会社)・WIT STUDIO・Aniplex・集英社が共同出資。資本金1億円。代表取締役は CloverWorks の福島勇一と WIT STUDIO の中武哲也。

制作スタジオが出版社・配信レーベルと対等に参加する新会社として、「製作委員会の外側に独自の利益分配スキームを構築する試み」として業界の権利構造改革の一里塚と評価される。

D. 業界における位置づけ

競合スタジオとの差別化

要素WIT STUDIOMAPPAufotable京アニ
規模約200名408〜467名非公表非公表
版権モデルIGポート傘下・製作委員会参加製作委員会+単独出資製作委員会自社作品中心
Netflix連携THE ONE PIECE等(先行)2026年戦略提携なしなし
特色クリエイター重視・品質志向大型IP量産・急拡大精緻なCG・アクション全作画内製・高品質

「制作赤字×版権黒字」という業界の本質

IGポートは2024年5月期に「版権事業営業利益+282%」という異常値を記録した。この数字が示すのは、「制作事業は赤字を出しながらも、それを通じて得た版権(著作権の二次利用権)が中長期的に爆発的な収益を生む」という業界の本質的な収益モデルである。WIT STUDIO が進撃の巨人ではなく SPY×FAMILY を選んだことは、この観点からは「大当たり」だった。

E. 主要エピソード

2012年
Production I.Gからの分社独立
Production I.Gの第6制作部を母体として設立。和田丈嗣をはじめ、浅野恭司アニメーターも参加。「Production I.Gでは作れなかった作品を作りたい」というクリエイター主導の独立。親会社IGポートが「やりたいことをやれる環境を提供する」という申し出を受け、独立でなくグループ内分社化を選択。「自由度と資金安定の両立」という設計が持続可能な成長モデルの基盤となった。
2013年
進撃の巨人 Season 1の衝撃
設立1年目で制作した『進撃の巨人』Season 1が国内外で前例のないレベルのヒットを記録。Newtype Anime Awardsで作品賞を含む7部門を独占。欧米・アジアでの日本アニメ市場を急拡大させる契機となり、創業間もないスタジオが業界最大規模のIPを作り上げたという事実が「クリエイティブ重視スタジオ」としてのブランドを確立した。
2019〜2022年
進撃 Final Season 辞退と「次のIP」の選択
Season 3完成後、WIT は Season 4(The Final Season)の制作を辞退。当初は「Why did WIT abandon AOT?」として海外ファンから批判を受けたが、2022年から SPY×FAMILY の共同制作を開始。2024年に SPY×FAMILY の版権収益がIGポートの業績を劇的に改善させ、「あの辞退は正しかった」という評価が定着しつつある。
2022年5月
JOEN設立による業界連合
WIT STUDIO、CloverWorks(Aniplex子会社)、Aniplex(ソニーミュージック系)、集英社という制作・出資・出版の異業種が共同出資した JOEN(資本金1億円)を設立。日本のアニメ産業では異例の「制作スタジオが出版社・レーベルと対等に参加する新会社」として、業界の権利構造改革の一里塚と評価される。
2024年〜
Netflixオリジナル「THE ONE PIECE」制作開始
ONE PIECE の新オリジナルアニメ版(リメイク)をNetflixオリジナルとして制作開始。MAPPA-Netflix 提携より先行する形でNetflixとの深い関係を構築。製作委員会モデルを採用しない「グローバルプラットフォームとの直接IP制作」の経験蓄積として戦略的意義を持つ。
2020年〜
ストップモーション・背景美術部門の新設と技術多様化
2020年にストップモーション部門(浅木寿美監督主導)、2022年に背景美術部門を新設。CGI・2D作画・ストップモーション・背景美術を内製化することで制作品質の自律管理と多様な表現への対応能力を拡大。技術多様性という観点で他スタジオとの差別化を図っている。

F. 今後の展望

制作事業の構造的課題と改善方向

課題要因対応策
人件費高騰アニメーター不足・待遇改善要求雇用条件改善・JOEN経由の収益分配改善
CG・外注費増加クオリティ基準の高度化Signal.MDとの連携強化による内製化
版権収益の非連続性ヒット依存ポートフォリオIPの多様化

THE ONE PIECE(Netflix)の戦略的位置づけ

Netflixオリジナルとして制作中の「THE ONE PIECE」(リメイク版)は、WIT にとって複数の戦略的意義を持つ。MAPPAより先行した形でのNetflixとの深い関係構築、世界最高峰の認知度を持つIPによる国際的注目、製作委員会外の収益モデルの経験蓄積という3点が主な意義。ただし東映アニメーション版「ONE PIECE」との「競合」という側面もあり、IPホルダー(集英社・東映)との調整は継続的課題。

IGポートグループの中長期戦略

課題・リスク

    References — 数値の出典
  1. WIT STUDIO - Wikipedia
  2. ウィットスタジオ - Wikipedia(日本語)
  3. ウィットスタジオ、24年5月期決算は最終利益212%増 - gamebiz
  4. IGポート売上利益過去最高、SPY×FAMILY・ハイキュー - animationbusiness.info
  5. IGポート通期売上149億円 前年比23%増 - animationbusiness.info
  6. IGポート、制作業務で大幅損失もSPY×FAMILY版権利益+280% - オタク総研
  7. CloverWorks, Wit Studio, Aniplex, Shueisha form JOEN - Anime News Network
  8. 急成長から模索期を経て拡大へ「WIT STUDIO」 - MACC 文化庁