CREATOR ECONOMY · EPISODES ISSUE 01 / 2026

音楽エピソード
Audius / Royal — 音楽印税のWeb3革命と現実(2020〜2025年)

Audiusは分散型ストリーミングでアーティストへの90%収益還元を目指し、Royalは楽曲印税NFT化プラットフォームとして2022年にa16zから5500万ドルを調達した。しかしRoyalは2024年4月にマーケットプレイスを閉鎖してAI権利管理にピボット。Audiusは2025年12月にICEと正規ライセンスを締結し、Web3音楽インフラ路線へ転換した。

3行サマリ

  1. Royal の挫折: 2021年のNas NFTドロップ(56万ドル超完売)[3]から急成長し、2022年11月にa16z・Coinbase Ventures・Paradigmから5500万ドル調達[2](累計7100万ドル)[5]。しかしNFT市場の90%以上崩壊を受け、2024年4月にマーケットプレイスを閉鎖[4]し、AI生成音楽の権利管理インフラへピボット。
  2. Audius の進化: 2019年のリリースから2022年には月間アクティブユーザー800万人超・登録アーティスト20万人に成長。2022年7月のハッキング(600万ドル盗難)という危機を経て、2025年12月に欧州最大の著作権管理団体ICEとの正規ライセンス協定を締結した。
  3. 業界的位置付け: Web3音楽は2025年時点で「NFT投機」から「実用的ロイヤルティインフラ」へ軸足を移す過渡期にある。ステーブルコインによる即時微少額決済の技術的実現は証明されたが、エンドユーザーUXの障壁が普及の最大課題として残る。

A. 何が起きたか

Audius の軌跡(2019〜2026年)

設立と技術基盤: 共同創業者Roneil RumburgとForrest Browning(元Stanford)が2019年10月に一般公開。最初はEthereumベースだったが2020年にSolanaブロックチェーンへ移行(高速・低コスト)。2021年8月にはKaty Perry、The Chainsmokers、Nas、deadmau5等がアドバイザー・投資家として参加を発表し、同年10月にはTikTok(ByteDance)がAudiusとの統合を発表した。

経済モデル: アーティストは収益の90%をAUDIOトークンで受領(Spotify等は約70%をレーベルが受け取り、アーティストへの還元率は実質15〜25%程度)。残り10%はネットワークのノードランナー(ステーカー)に分配。中間プラットフォーム手数料なし、ファンは無料でストリーミング可能。

年/時期出来事
2019年10月一般公開(Ethereumベース)
2020年Solanaへ移行、高速・低コスト化
2021年8月Katy Perry等がアドバイザー参加を発表
2021年10月TikTokとの統合を発表
2021年VC調達6700万ドル(Multicoin Capital、Blockchange等)
2022年ピークMAU 800万人超、登録アーティスト20万人
2022年7月ハッキングにより約600万ドル[7]相当のAUDIOトークン盗難
2025年12月ICE(欧州最大著作権管理団体)との正規ライセンス協定締結

Royal の軌跡(2021〜2025年)

創業と初期の実績: 創業者はJustin「3LAU」Blau(DJプロデューサー)とJD Ross(Opendoor共同創業者)。3LAUは2021年3月に自身のアルバムを11百万ドル分のNFTとして販売し「音楽NFT」の可能性を実証。2021年8月に1600万ドルのシード調達を完了した。

主要ディールと急成長: 2022年1月にNasのカタログから「Rare」「Ultra Black」の印税権をNFT化。1870点のNFTが完売し56万ドル超の収益を達成(参加者:The Chainsmokers、Miguel等)。技術的にはEthereumサイドチェーンのPolygon上でNFTを発行し、ユーザーは自己管理ウォレット不要でドル建て購入が可能だった。NFT保有者はトークン比例で定期的にストリーミング印税を受領する設計。

年/時期出来事
2021年3月3LAUがアルバムをNFTで11百万ドル販売(音楽NFTの実証)
2021年8月シード調達 1600万ドル[5]
2022年1月Nas NFTドロップ — 1870点完売、56万ドル超[3]
2022年11月シリーズA 5500万ドル[2](a16z、Coinbase Ventures、Paradigm)、累計7100万ドル[5]
2023年暗号資産市場崩壊。音楽NFT取引量が2022年比90%以上減少
2024年4月マーケットプレイス閉鎖。AI生成音楽の権利管理インフラへのピボットを発表

その他の主要Web3音楽プラットフォーム

Sound.xyz: ミュージシャンが限定版「試聴NFT」(Edition)を販売するモデル。2024年時点でも運営継続中。少量・熱狂的ファン向けモデルで生き残っている。Catalog: 1/1 NFT(ユニーク版)の音楽NFTに特化し小規模ながら継続運営。Opulous(OPUL): 楽曲担保ローンという独自モデルで差別化を図ったが、2022年以降は静かに縮小。

B. 業界インパクト

実証できたこと

「音楽著作権の所有権分散」という概念の定着: RoyalはNFTにより個人ファンがゲートウェイコストなしに印税共有できることを証明した。この概念は2025年時点でも業界のディスカッションの軸として残っている。

ブロックチェーン上の自動決済の実証: スマートコントラクトによる「ストリーミング→自動印税分配」は技術的に実現可能であることを証明した。従来の音楽業界では印税支払いまで6〜24ヶ月かかるケースが多いが、ブロックチェーンでは瞬時に分配可能。

ICEとのライセンス協定(2025年): AudiusとICE(ベルリン本部、欧州最大の著作権管理団体)の正規ライセンス締結は「Web3は著作権を侵害する」という認識を覆す重要マイルストーン。

現実の壁

C. 失敗と教訓

Royalの教訓:投機 vs 実用

Royal最大の誤算は「印税NFTを投機商品として購入する層」と「実際に音楽ロイヤルティを長期保有したい層」の乖離。暗号資産ブーム時は投機需要が実需要を上回り、ブーム終焉後に実需要だけでは事業規模を維持できなかった。

教訓: トークンによる資産化を設計する際、「実需要」と「投機需要」を明確に分けるか、投機需要に過度に依存しないモデルが必要。実際のロイヤルティキャッシュフローに裏付けられた「利回り型」設計が持続可能性を高める。

Audiusの教訓:セキュリティと分散化の矛盾

2022年7月のハッキング(約600万ドル盗難)は「スマートコントラクトが完全安全ではない」ことを実証した。またAUDIOトークンのガバナンスが一部大口保有者に集中しており、「分散型」との標榜との矛盾が指摘された。

教訓: 「分散型」と「セキュリティ」は両立が難しく、設計段階での監査・多重防御が必須。トークン分配の偏りはガバナンスの形骸化を招く。

D. 炎上・スキャンダル

E. 現在の動き(2025〜2026年)

Web3音楽の「生き残り」パターン

路線代表例概要
ライセンスインフラ化Audius著作権団体・ストリーミングサービスとの正規連携を通じた「決済インフラ」として機能
プレミアム少量版Sound.xyz、Catalog熱狂的ファンコミュニティ向けの希少版デジタルコレクタブル
AI著作権管理Royal(新路線)AI生成コンテンツが急増する中での権利帰属・印税分配ソリューション

ステーブルコインによる即時微少額決済の現状

Audius × USDC(Circle)のモデルでは、ドル建てのAudiusサブスクリプション収益をアーティストに即時送金するモデルの試験が進行中。Spotify自身も2023年にNFT表示機能をテストしたが後に縮小。Apple Music、YouTube Music等のメジャーサービスは音楽NFT・トークン統合には依然消極的な姿勢を維持している。


    References — 数値の出典
  1. Decrypt — 3LAU's Royal Debuts Marketplace to Bring Music NFTs to the Masses
  2. Billboard — 3LAU's NFT Startup Royal Raises $55M From Andreessen Horowitz
  3. NFT Now — 3LAU's Royal Announces First Drop Featuring Nas
  4. Wikipedia — Royal.io
  5. Crunchbase — Royal Funding History
  6. Orphiq — Music NFTs in 2026: What's Working Now
  7. The Mobile Reality — Blockchain Web3 Music Companies in 2025
  8. Audius X — Fair Payment, Co-Ownership, Music NFTs