2021年1月 | ショートスクイーズ / リテール vs 機関
GameStop Corp.は実店舗型のビデオゲーム小売チェーンで、2020年時点では業績が低迷し、多くのヘッジファンドが「衰退企業」として大量のショートポジションを構築していた。空売り比率は発行済み株式数の140%を超えるという異常な水準に達していた(同一株式が複数回貸し出されることで100%超が可能)。
一方、Robinhood等の手数料無料取引アプリの普及により、リテール投資家の市場参加が急増。COVID-19によるロックダウンで自宅待機する若年層が、ソーシャルメディアを通じて投資情報を共有するコミュニティを形成していた。RedditのWallStreetBets(WSB)は、その中核的プラットフォームだった。
WSBユーザーの一部(特にDeepFuckingValue/Keith Gill)が、GameStopの空売り比率の異常な高さに着目。過剰なショートポジションを持つファンドに対してショートスクイーズ(踏み上げ)を仕掛けることが可能だと指摘し、コミュニティ内で買い推奨が広がった。
GameStop株はじわじわと上昇を開始。1月11日にRC Ventures(Chewy創業者Ryan Cohen)の取締役就任が発表されると、ファンダメンタル面での材料も加わり買いが加速。1月22日に$65に到達した時点で、ショートスクイーズの圧力が本格化した。
1月25日に$76から$159へ急騰。26日に$347、27日のイントラデイで$483に到達。この間、Melvin Capitalを含むショートポジション保有者は巨額のマージンコール(追加証拠金要求)に直面し、損切りの買い戻しがさらなる上昇を招く悪循環に陥った。
Elon MuskがツイートでGameStopに言及するなど、ソーシャルメディアでの話題性がさらなる買いを呼び込んだ。
1月28日、RobinhoodがGameStop等の「ミーム株」の新規買い注文を制限。清算機関(DTCC)からの証拠金要求が急増したことが理由とされた。この制限は広範な批判を浴び、「リテール投資家がヘッジファンドに勝ちそうになると取引を止める」という不公平感が拡大した。
Melvin Capital(運用者Gabriel Plotkin、Point72出身)は2021年1月だけで-53%の損失を記録。Ken GriffinのCitadelとSteve CohenのPoint72が$2.75Bの緊急出資を行ったが、ファンドは回復できず。2022年5月に閉鎖が発表された。
GameStop事件は、ソーシャルメディアが市場の需給に直接的な影響を与え得ることを初めて大規模に実証した。分散した個人投資家が、集団として機関投資家に匹敵する市場インパクトを生み出せることが明らかになった。
空売り比率が100%を超える銘柄のショートスクイーズリスクが広く認識された。事件後、ヘッジファンドのショートポジションの集中度は業界全体で低下した。
| 人物 | Keith Gill / DeepFuckingValue(WSB)、Gabriel Plotkin(Melvin Capital)、Ken Griffin(Citadel)、Vlad Tenev(Robinhood CEO) |
|---|---|
| 企業 | GameStop Corp.、Melvin Capital、Citadel / Citadel Securities、Point72、Robinhood |
| 関連エピソード | アルケゴス崩壊(2021年3月) — 同時期のリスク管理失敗事例 |
「市場参加者の構成が変わると、リスクの性質も変わる。」GameStop事件は、ソーシャルメディア時代における「集団行動リスク」という新しいカテゴリーのリスクを確立した。ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析の枠組みでは捉えられない、情報拡散とセンチメントのフィードバックループが市場を動かし得ることを証明した。