CREATOR ECONOMY · EPISODES
ISSUE 01 / 2026
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HYBE × SM Entertainment 買収戦争
音楽エピソード
HYBE × SM Entertainment 買収戦争(2023年2-3月)
BTS擁する韓国最大手HYBEがSM Entertainment創業者Lee Soo-manから14.8%株式を3,343億ウォン(約$334M)[5]で取得し買収を仕掛け、Kakaoが対抗テンダーオファーで応戦した約7週間のM&A戦。Kakaoがテンダー価格150,000ウォン(HYBEは120,000ウォン)でSMの39.87%を取得して勝利[6]、HYBEは取得分を売却して撤退(推定$440M回収、+25%売却益)[2]。
3行サマリ
- 戦いの構図: SM創業者Lee Soo-man + HYBE 連合 vs SM経営陣 + Kakao 連合。Lee Soo-manの個人会社「Like Planning」へのプロデューサーフィー(2017-2021で約1,400億ウォン)の利益相反問題が引き金。
- 決着: Kakaoがテンダー価格150,000ウォン(HYBEより+25%)[3]で約44%応募・比例配分後35%確保。Kakao Corp 20.78%+Kakao Entertainment 19.13%で合計39.87%の筆頭株主[6]に。
- 余波: Lee Soo-man完全退陣・A2O Entertainment再起業、HYBEは撤退益+25%確保、Kakao創業者Kim Beom-suは2024年7月に株価操縦容疑で逮捕→2025年10月無罪判決→検察上告中。
A. 何が起きたか
前史:SM内部対立とHYBEの奇襲(2022〜2023年2月)
SMは1995年Lee Soo-man創業後、Lee個人会社「Like Planning」がSMから多額のプロデューサーフィー(2017〜2021年累計約1,400億ウォン)を受け取る構造で、長年ガバナンス課題が指摘されていた。2022年にアクティビスト株主Align Partnersが改善要求を強化、2023年2月にSM経営陣(CEO Lee Sung-su・Tak Young-jun)がLike Planningとの契約終了を発表し、Lee Soo-manとの内部対立が顕在化した。
2023年2月3日、SM経営陣はKakaoに新株・転換社債発行で9.05%売却・2,200億ウォン調達を発表。これに反発したLee Soo-manは2月10日、HYBEに自身の保有株14.8%を3,343億ウォン(約$334M、株価120,000ウォン)[5]で売却し、HYBEがSMの最大株主に躍り出た。同日HYBEは残り25%取得を目指すテンダーオファー(120,000ウォン/株)を宣言した。
Kakaoの逆襲とHYBEの撤退(2023年3月)
2月22日、Lee Soo-manがソウル中央地裁にSM-Kakao新株発行差止仮処分を申立て、認容された。これでKakao陣営は劣勢に立たされたが、3月7日に逆襲のテンダーオファーを宣言。価格150,000ウォン/株(HYBE比+25%)、目標35%、総額約1.25兆ウォン(約$960M)[3]の大型攻勢に出た。
HYBEは3月12日にテンダーオファー目標の達成1%未満と発表、3月14日にSM経営陣との和解協議を開始。3月24日にHYBEはKakaoのテンダーへ全株売却を表明し、150,000ウォン×14.8%≒約4,400億ウォンを回収(取得価120,000ウォンとの差で約$110Mの売却益)[2]。3月28日、Kakao陣営は合計39.87%でSM筆頭株主の座を確定した[6]。
取引条件の比較
| 主体 | テンダー価格 | 目標株数 | 想定総額 | 結果 |
| HYBE | 120,000ウォン | 25% | 約1.0兆ウォン | 達成1%未満、撤退 |
| Kakao | 150,000ウォン | 35% | 約1.25兆ウォン | 約44%応募、比例配分で35%確保 |
| Lee Soo-man → HYBE売却 | 120,000ウォン | 14.8% | 3,343億ウォン | 完了 |
| HYBE → Kakao売却 | 150,000ウォン | 14.8% | 約4,400億ウォン | 完了、+25%売却益 |
B. 業界インパクト
インパクト1:K-POP業界支配構造の地殻変動
韓国エンタメ最大手HYBEがSM買収に失敗したことで、結果として「テック大手(Kakao)×コンテンツ事業者」という新たな支配構造が確立された。Kakaoは2021〜2023年に1.7B USDをエンタメ買収に投じ、メッセンジャー → Melon → Kakao M → ウェブトゥーン → 映像 → SMという段階的垂直統合を完成させた。
インパクト2:テンダーオファー戦の教科書的事例
HYBE(120,000ウォン・25%)vs Kakao(150,000ウォン・35%)の競合は、価格・タイミング・法廷戦・第三者株主のエクスポージャーが揃った教科書的M&A事例。プレミアム25%差が決定打となり、HYBEは結果的に撤退ながら売却益を獲得する非対称結果に。
インパクト3:創業者出口の対比軸を提示
Lee Soo-manの強制退陣・A2O Entertainment再起業(2024年)と、対照的にPark Jin-young(JYP)の段階的経営退任→クリエイティブ専念(2026年)。創業者出口の典型2パターンの対比軸として、業界研究で頻繁に引用されることになった。
インパクト4:テック資本のIP事業侵入
Kakao Melon(韓国最大音楽配信)がSMアーティストの音源を独占的にレコメンドする構造は、Spotify/Universalのアルゴリズム露出問題と類似。2025年5月にはTencent Music Entertainmentが、HYBEが残していたSM株式の一部を取得し間接的No.2株主化との報道(KED Global)も登場し、東アジアテック資本のK-POP事業への深い関与が明らかになった。
C. 失敗と教訓
失敗1:HYBEの取得価格設定ミス
HYBEは2月10日のテンダー価格を120,000ウォンに設定したが、これはLee Soo-manからの相対取引価格と同水準。結果としてKakaoに+25%プレミアムを上乗せされる余地を残し、価格戦で完全に劣後した。「相対取得価格=公開買付価格」の硬直的設計が敗因の一つ。
教訓: 敵対的買収では、対抗入札者の参入余地を見越した「初動プレミアム」設計が不可欠。HYBEのように相対価格と同額で公開買付に入ると、競合に価格戦で押し切られる。
失敗2:Lee Soo-manの利益相反構造の長期放置
Like Planningへの過大なプロデューサーフィー構造は2019年のKB Asset Management公開書簡で既に問題化していたが、SM側は2022〜2023年まで根本対応を遅延。アクティビスト株主の累積要求が経営陣の反乱を招き、結果として創業者を会社から追放するレベルの紛争に発展した。
D. 炎上・スキャンダル
- Kakao創業者Kim Beom-su 株価操縦容疑(2024年7月〜): ソウル南部地検がHYBEテンダー期間中(2023年2月)にSM株価を120,000ウォン超に維持するため2,400億ウォン規模の不正取引を指示したと主張。2024年7月23日逮捕、8月8日起訴、2025年8月に検察が懲役15年・罰金5億ウォン求刑。
- 2025年10月 無罪判決と上告: ソウル南部地裁が「価格操縦の意図が立証されず、市場操縦の典型的態様と異なる」として無罪判決[7]。検察は2025年10月末に上告。Kakao帝国の法的リスクが浮き彫りに。
- 仮処分応酬: Lee Soo-manがSM-Kakao新株発行差止を申立て認容され、両陣営の法廷戦が激化。「韓国経営権争奪の典型」として教科書的事例に。
E. 現在の動き(2024〜2026年)
- SM 3.0戦略実行: マルチプロダクション体制(5つの内部センター + 海外サブレーベル)、KMR出版強化、海外レーベル設立を推進。Kakao派遣の取締役補強でガバナンス再編。
- Lee Soo-manのA2O Entertainment: 2024年10月設立、12月にA2O May(中国人女性5人組)がTVXQ「Mirotic」リメイクでデビュー。2025年4月US Mediabase Top 40 Airplay入り(中国人女性グループ初)。
- HYBEの戦略転換: BTS軍除隊(2025年)に向けた準備、ILLIT・LE SSERAFIM等の自社新人グループ強化に注力。
- Tencent Music参入: 2025年5月にHYBE残留分の一部を取得、SM間接的No.2株主化との報道(KED Global)[8]。
- Kakao帝国の縮小: Kim Beom-suは2025年初にCA Council共同議長を辞任。Kakaoの大規模M&A戦略は一旦縮小、内部効率化フェーズへ。
F. クリエイターエコノミー視点での示唆
- 創業者vs経営陣の典型構図: 創業者が外部買収者(HYBE)と結託、経営陣が同盟者(Kakao)と結託する分断は、伝統的家族企業のM&A戦の典型例。Lee Soo-manの個人プロデューサーフィー問題が引き金。
- テンダーオファー戦の教科書事例: 価格・タイミング・法廷戦・第三者株主のエクスポージャー(HYBEは結果的にプレミアム25%を獲得)。ハイレベルM&A戦のケーススタディに適切。
- 創業者の出口設計の対比: Lee Soo-manは買収戦で退陣しA2O設立、Park Jin-youngは計画的な経営退任→クリエイティブ専念。創業者出口の対比軸として教訓的。
- 規制リスクの視覚化: Kakao創業者の起訴・無罪・上告というプロセスは、新興テック大手が伝統エンタメM&Aで法的リスクを抱える事例として、業界研究で頻繁に引用される。
References — 数値の出典
- KED Global — Timeline of HYBE's failed bid for SM
- KED Global — HYBE accepts Kakao's tender offer
- MBW — HYBE's takeover plan falls short, Kakao launches $960m offer
- Variety — HYBE and Kakao End Hostilities
- Korea Herald — Lee Soo-man joins hands with Hybe
- CNN Business — Kakao wins control of SM
- Korea Herald — Kakao founder acquitted
- KED Global — Tencent to become SM's No. 2 shareholder