Carlyle傘下の音楽専門会社Litmus Musicが2023年最大の単一アーティストカタログ取引でKaty Perryの5アルバム分の権利を取得。Dr. Luke共著楽曲問題、Capitol Records(UMG)による管理継続の制約、そして2025年4月の$4.64億ABS化まで。
Katy Perry(本名:Katheryn Elizabeth Hudson、1984年生まれ)は2008年にCapitol Recordsからデビュー。以後2020年の「Smile」まで5枚のアルバムをリリースし、5曲以上のBillboard Hot 100 No.1シングルを持つ世界的ポップスター。
売却前の権利構造として、原盤権(Master Recordings)はCapitol Records(Universal Music Group傘下)が主保有でペリーは一部収益持分のみを持ち、出版権(Songwriting/Publishing)はペリー自身および共同著作者のシェアで保有していた。ペリーは「全てのマスターをCapitolが持つ契約」でデビューしており、Taylor Swiftのようなマスター権問題を声高に訴えたことはない。ただしDr. LukeがKemosabe Records(Dr. Lukeのレーベル)やPrescription Songs(Dr. Lukeのパブリッシング)経由で共有する楽曲もあり、全権利をペリーが単独保有しているわけではなかった。
Carlyle Group(NYSE: CG)は2022年8月、音楽専門の「Litmus Music」を設立。Carlyle Global Credit Platformから$5億のコミットメント(エクイティ+デット+マネジメント資本)を提供し[1]、共同創業者にHank Forsyth(CEO、元Capitol Music Group EVP)とDan McCarroll(CCO、元Capitol Records社長)を起用した。ビジネスモデルは音楽出版権・録音権を横断的に取得し、収益化・ABS化を通じてリターンを実現するクレジット型投資。Carlyle本体のPE(バイアウト)ファンドではなく、債権・クレジット運用部門として音楽を「高格付け代替資産」として捉えるアプローチが特徴的だ。
2023年9月18日、Litmus Music(Carlyle傘下)がKaty Perry(Katy Perry Productions他)から推定$2.25億で音楽カタログを取得[2][4]。Varietyは「Industry sources place the deal's value at around $225 million.」と報じた(公式開示なし)。
| アルバム(年) | 代表楽曲 |
|---|---|
| One of the Boys(2008年) | "I Kissed a Girl"、"Hot n Cold"、"Waking Up in Vegas" |
| Teenage Dream(2010年) | "Teenage Dream"、"California Gurls"(feat. Snoop Dogg)、"Firework"、"E.T." |
| Prism(2013年) | "Roar"、"Dark Horse"(feat. Juicy J)、"Unconditionally" |
| Witness(2017年) | "Chained to the Rhythm"、"Bon Appétit" |
| Smile(2020年) | "Smile"、"Daisies" |
売却した権利の内容は、ペリーが保有する出版権のシェア(各楽曲の共著者としてのロイヤリティ受益権)とペリーが保有する原盤権のシェア(Capitol Recordsが保有するマスターに対するペリー持分)。Capitol Records/UMGは原盤の「管理・配信権」を継続保有しており、Litmusは経済的収益を受益するがUMGが配信・ライセンスの主導権を持つ。
Dr. Luke(Łukasz Gottwald)は「I Kissed a Girl」「Hot n Cold」「Teenage Dream」「California Gurls」「Roar」「Dark Horse」など、ペリーの代表作の多くを共同制作・共著した。Dr. LukeはKeshaとの性的暴行・ハラスメント訴訟(2014〜2023年に和解)を抱えていた。
Litmusがペリーカタログを取得した際、Dr. Luke関連の共著楽曲についてはPrescription Songs/Kemosabeが依然として出版権の一部を保有している可能性が高い。Litmusは「ペリー持分」のみを取得したのであり、Dr. Lukeのシェアは含まれない。「Roar」「Dark Horse」「Teenage Dream」等の人気楽曲については、ロイヤリティが複数の権利者(Capitol/UMG、ペリー持分→Litmus、Dr. Luke持分→Prescription Songs)に分散する構造が維持されている。
2021〜2022年の「カタログM&Aバブル」が金利上昇・バリュエーション調整で鎮静化した後の2023年に$2.25億という大型案件が成立した。これにより「金利が上がってもトップ層のアーティストカタログの需要は落ちない」ことが実証され、2023年の案件相場観(年間ロイヤリティの15〜20倍)が再確認された。
Carlyle Global CreditはこれまでLBO融資・CLO等の企業信用を中心に扱ってきた。音楽への$5億コミットメントは「Carlyleがコンテンツクレジットに参入した」宣言として業界に大きなシグナルを発した。
ダン・マッキャロルとのCapitol Records時代の関係がペリーの売却先決定に影響したとされる。これは「PEファンドの音楽投資成否は、業界コネクションを持つ経営陣の採用で決まる」ことを示す。Apolloの音楽チームやBlackstoneの音楽部門も同様に「業界OBの採用」を重視している。
2025年4月に報じられた$4.64億のABS組成は、Litmus設立から約3年でのABS発行という達成速度の早さ、$7.5億超の担保(Katy Perry・Keith Urban・Benny Blanco等)、5年ARPの40年満期という超長期構造、保険会社・資産運用会社からの「3倍超の需要」という点で、Apollo-Concord ABSと並んで「音楽ABS市場の定着」を示す事例となった。
Litmusが取得したカタログの重要楽曲群("Teenage Dream"、"Roar"等)にはDr. Lukeのプロデューサーとしての痕跡が残る。ESGスクリーニングを行う機関投資家にとっては「性的暴行で訴えられたプロデューサーの楽曲からロイヤリティを受益することの倫理的問題」が残る。和解は成立したが、Keshaが「数百万ドルの法的費用を負担した」と公言しており世論の批判は続いている。
LitmusはペリーのIPの経済的受益権を持つが、Capitol Records/UMGが配信・ライセンスの主導権を持つ。ペリー楽曲の同期使用(映画・広告)やサンプリング承認においてCapitolが「ゲートキーパー」として機能するため、LitmusがCapitolに依存した形でしか収益最大化ができないという制約がある。
2023年9月の売却後、ペリーの2024年アルバム「143」は批評的・商業的に不振(シングルがBillboard Hot 100トップ40に届かず)。「Woman's World」に対するDr. Luke起用批判も相まってパブリックイメージが低下した。カタログの将来的な同期使用需要・ストリーミング需要にマイナス影響が及ぶリスクがある。「アーティストの個人的な権利持分」の取得にはキャリアリスクが伴うという教訓を示す。