CREATOR ECONOMY · EPISODES ISSUE 01 / 2026

音楽エピソード
Litmus Music × Katy Perry カタログ買収(2023年9月・推定$2.25億)

Carlyle傘下の音楽専門会社Litmus Musicが2023年最大の単一アーティストカタログ取引でKaty Perryの5アルバム分の権利を取得。Dr. Luke共著楽曲問題、Capitol Records(UMG)による管理継続の制約、そして2025年4月の$4.64億ABS化まで。

3行サマリ

  1. 2023年最大の単一アーティストカタログ取引(2023年9月18日): Carlyle GroupのGlobal Credit Platform傘下のLitmus Musicが、Katy Perryの音楽カタログ(出版権・原盤権のペリー持分、5アルバム分)を推定$2.25億で取得[2][3]。重要な点として、Capitol Records/UMGは引き続き原盤の「管理・配信権」を保持し、Litmusが取得したのはあくまで「経済的受益権」である。
  2. Litmus Musicは設立16ヶ月での大型買収: Carlyleが2022年8月に$5億のコミットメント(エクイティ+デット)を提供し、Capitol Records元社長のダン・マッキャロルとハンク・フォーサイスが共同創業した音楽専門会社[1]。マッキャロルのCapitol Records時代のKaty Perry担当経験が売却先決定に影響したとされる。
  3. $4.64億ABS(2025年4月・40年満期): 設立から約3年で、Litmus保有の$7.5億超カタログ(Katy Perry・Keith Urban・Benny Blanco等)を担保とした$4.64億の債券を組成[5][6]。5年のARP(期待返済期間)を持つ40年満期構造で、保険会社・資産運用会社から3倍超の需要(oversubscribed)を集めた。

A. 何が起きたか

Katy Perryのキャリアと権利構造

Katy Perry(本名:Katheryn Elizabeth Hudson、1984年生まれ)は2008年にCapitol Recordsからデビュー。以後2020年の「Smile」まで5枚のアルバムをリリースし、5曲以上のBillboard Hot 100 No.1シングルを持つ世界的ポップスター。

売却前の権利構造として、原盤権(Master Recordings)はCapitol Records(Universal Music Group傘下)が主保有でペリーは一部収益持分のみを持ち、出版権(Songwriting/Publishing)はペリー自身および共同著作者のシェアで保有していた。ペリーは「全てのマスターをCapitolが持つ契約」でデビューしており、Taylor Swiftのようなマスター権問題を声高に訴えたことはない。ただしDr. LukeがKemosabe Records(Dr. Lukeのレーベル)やPrescription Songs(Dr. Lukeのパブリッシング)経由で共有する楽曲もあり、全権利をペリーが単独保有しているわけではなかった。

Litmus Musicの設立(2022年8月)

Carlyle Group(NYSE: CG)は2022年8月、音楽専門の「Litmus Music」を設立。Carlyle Global Credit Platformから$5億のコミットメント(エクイティ+デット+マネジメント資本)を提供し[1]、共同創業者にHank Forsyth(CEO、元Capitol Music Group EVP)とDan McCarroll(CCO、元Capitol Records社長)を起用した。ビジネスモデルは音楽出版権・録音権を横断的に取得し、収益化・ABS化を通じてリターンを実現するクレジット型投資。Carlyle本体のPE(バイアウト)ファンドではなく、債権・クレジット運用部門として音楽を「高格付け代替資産」として捉えるアプローチが特徴的だ。

Katy Perry カタログ取引(2023年9月18日)

2023年9月18日、Litmus Music(Carlyle傘下)がKaty Perry(Katy Perry Productions他)から推定$2.25億で音楽カタログを取得[2][4]。Varietyは「Industry sources place the deal's value at around $225 million.」と報じた(公式開示なし)。

売却対象の5アルバムと主要楽曲

アルバム(年)代表楽曲
One of the Boys(2008年)"I Kissed a Girl"、"Hot n Cold"、"Waking Up in Vegas"
Teenage Dream(2010年)"Teenage Dream"、"California Gurls"(feat. Snoop Dogg)、"Firework"、"E.T."
Prism(2013年)"Roar"、"Dark Horse"(feat. Juicy J)、"Unconditionally"
Witness(2017年)"Chained to the Rhythm"、"Bon Appétit"
Smile(2020年)"Smile"、"Daisies"

売却した権利の内容は、ペリーが保有する出版権のシェア(各楽曲の共著者としてのロイヤリティ受益権)とペリーが保有する原盤権のシェア(Capitol Recordsが保有するマスターに対するペリー持分)。Capitol Records/UMGは原盤の「管理・配信権」を継続保有しており、Litmusは経済的収益を受益するがUMGが配信・ライセンスの主導権を持つ。

Dr. Lukeの問題と権利の複雑性

Dr. Luke(Łukasz Gottwald)は「I Kissed a Girl」「Hot n Cold」「Teenage Dream」「California Gurls」「Roar」「Dark Horse」など、ペリーの代表作の多くを共同制作・共著した。Dr. LukeはKeshaとの性的暴行・ハラスメント訴訟(2014〜2023年に和解)を抱えていた。

Litmusがペリーカタログを取得した際、Dr. Luke関連の共著楽曲についてはPrescription Songs/Kemosabeが依然として出版権の一部を保有している可能性が高い。Litmusは「ペリー持分」のみを取得したのであり、Dr. Lukeのシェアは含まれない。「Roar」「Dark Horse」「Teenage Dream」等の人気楽曲については、ロイヤリティが複数の権利者(Capitol/UMG、ペリー持分→Litmus、Dr. Luke持分→Prescription Songs)に分散する構造が維持されている。

B. 業界インパクト

インパクト1:2023年カタログM&Aの基準値設定

2021〜2022年の「カタログM&Aバブル」が金利上昇・バリュエーション調整で鎮静化した後の2023年に$2.25億という大型案件が成立した。これにより「金利が上がってもトップ層のアーティストカタログの需要は落ちない」ことが実証され、2023年の案件相場観(年間ロイヤリティの15〜20倍)が再確認された。

インパクト2:Carlyle Global Creditが「音楽クレジット市場」を開拓

Carlyle Global CreditはこれまでLBO融資・CLO等の企業信用を中心に扱ってきた。音楽への$5億コミットメントは「Carlyleがコンテンツクレジットに参入した」宣言として業界に大きなシグナルを発した。

インパクト3:「Capitol Records人脈」がLitmusの競争優位に

ダン・マッキャロルとのCapitol Records時代の関係がペリーの売却先決定に影響したとされる。これは「PEファンドの音楽投資成否は、業界コネクションを持つ経営陣の採用で決まる」ことを示す。Apolloの音楽チームやBlackstoneの音楽部門も同様に「業界OBの採用」を重視している。

インパクト4:$4.64億ABSが「Carlyle音楽クレジット」の完成を示す

2025年4月に報じられた$4.64億のABS組成は、Litmus設立から約3年でのABS発行という達成速度の早さ、$7.5億超の担保(Katy Perry・Keith Urban・Benny Blanco等)、5年ARPの40年満期という超長期構造、保険会社・資産運用会社からの「3倍超の需要」という点で、Apollo-Concord ABSと並んで「音楽ABS市場の定着」を示す事例となった。

C. 失敗と教訓

失敗1:「Dr. Luke汚染リスク」の管理問題

Litmusが取得したカタログの重要楽曲群("Teenage Dream"、"Roar"等)にはDr. Lukeのプロデューサーとしての痕跡が残る。ESGスクリーニングを行う機関投資家にとっては「性的暴行で訴えられたプロデューサーの楽曲からロイヤリティを受益することの倫理的問題」が残る。和解は成立したが、Keshaが「数百万ドルの法的費用を負担した」と公言しており世論の批判は続いている。

失敗2:ペリーカタログの「Capitol支配下」という制約

LitmusはペリーのIPの経済的受益権を持つが、Capitol Records/UMGが配信・ライセンスの主導権を持つ。ペリー楽曲の同期使用(映画・広告)やサンプリング承認においてCapitolが「ゲートキーパー」として機能するため、LitmusがCapitolに依存した形でしか収益最大化ができないという制約がある。

失敗3:2023年以降のペリーのキャリア低迷とカタログ価値への影響

2023年9月の売却後、ペリーの2024年アルバム「143」は批評的・商業的に不振(シングルがBillboard Hot 100トップ40に届かず)。「Woman's World」に対するDr. Luke起用批判も相まってパブリックイメージが低下した。カタログの将来的な同期使用需要・ストリーミング需要にマイナス影響が及ぶリスクがある。「アーティストの個人的な権利持分」の取得にはキャリアリスクが伴うという教訓を示す。

教訓: 「取得→ABS化→再投資」という循環モデルは理論上機能するが、担保資産(アーティストカタログ)のブランドリスクがESGスクリーニングに引っかかる可能性を事前に評価する必要がある。音楽カタログ投資では「楽曲の永続的な価値」と「アーティスト・プロデューサーのブランドリスク」を分離して分析するデュー・ディリジェンスが不可欠。

D. 炎上・スキャンダル

E. 現在の動き(2025〜2026年)


    References — 数値の出典
  1. Carlyle公式 — Litmus Music設立発表(2022年8月)
  2. Variety — Katy Perry Sells Catalog Rights to Litmus Music for $225 Million(2023年9月18日)
  3. Music Business Worldwide — Katy Perry Sells Music Rights to Litmus in $220m+ Deal
  4. Billboard — Katy Perry Sells Catalog to Litmus Music
  5. Bloomberg — Carlyle Nears Bond Sale Tied to Keith Urban, Katy Perry(2025年4月28日)
  6. Music Business Worldwide — Carlyle Nears $464m Bond Sale
  7. Carlyle公式 — Litmus Music & Randy Newman Creative Partnership(2024年)
  8. Newsweek — Katy Perry Breaks Silence on Working With Dr. Luke(2024年)