CREATOR ECONOMY · IP ISSUE 01 / 2026

⚡ BTS / HYBE 転換点エピソード

音楽 2013年のデビューから2025年の全員除隊まで。BTSとHYBEの運命を変えた7つの決定的瞬間をストーリー形式で深掘りする。

🏆 エピソード1: 「Twitterひとつで Billboardを変えた瞬間」(2017年5月)

2017年5月、Billboard Music Awardsの「Top Social Artist」部門でBTSが受賞した。同部門はジャスティン・ビーバーが過去6年連続受賞しており、誰もがビーバーの7連覇を予想していた。

ところが、デビュー4年目の韓国の中堅アイドルグループBTSの名前がノミネートされると、ARMYがオンラインで組織的に投票運動を開始した。Twitterのハッシュタグ #BTSBBMAs が3億回ツイートされたとBillboardは発表。これは当時のTwitter史上最多のハッシュタグ投票であり、ビーバーのファンダムを8対1ほどの差で凌駕した。

授賞式当日、ラスベガスT-Mobile Arenaで BTSが壇上に立つ姿は、米国メディアにとって衝撃だった。「韓国語で歌う、英語圏での知名度ゼロのグループが、北米のポップ文化のお祭りで主役級の扱いを受ける」事態が初めて発生したのだ。これ以降、Billboard・Forbes・Timeは「ARMY」を独立した研究対象として扱うようになる。

意義: ファンダムが組織化された投票装置として機能するという K-POP特有の現象が世界に認知された瞬間。「ファンの集団行動が公式チャートを動かせる」という事実は、その後のARMYの行動規範を決定づけた。
🎵 エピソード2: 「2020年9月5日 — Hot 100 1位の重み」

2020年8月21日、BTSは初の全英語曲「Dynamite」をリリースした。新型コロナで世界中のコンサート市場が壊滅していた時期、「ステイホーム下の世界に踊れる楽曲を届ける」をコンセプトに制作されたディスコ調のポップソングだ。

リリース後24時間でYouTube 1億1,300万回再生(当時の世界記録)を達成。9月5日付のBillboard Hot 100で韓国アーティスト史上初の全米1位を獲得した。

この記録の重みを理解するには、過去のアジア人1位を振り返る必要がある。Hot 100で1位を取ったアジア人アーティストは、1963年の坂本九「上を向いて歩こう(Sukiyaki)」が唯一の前例で、それから57年間誰も到達できなかった。BTSはそれを破った。

さらに「Dynamite」の翌週、BTSはHot 100に5曲同時にランクインした。これはビートルズ・テイラー・スウィフト級の現象であり、1アーティストがHot 100を支配する「帝王的状況」の到来を意味した。HYBEのIPO(大型上場)は約1ヶ月後の10月15日。「Dynamite」の1位は、IPO価格を実質決めた最大要因だった。

意義: 57年ぶりのアジア人Hot 100 1位という記録が、HYBEのIPO・海外投資家の信頼・Weverseへの大規模投資という連鎖を引き起こした。1曲が「会社全体の価値」を決めた典型事例。
🔗 エピソード3: 「NaverとWeverse — V LIVEを呑み込んだ日」(2021年1月)

K-POPのファンコミュニケーションの中心は長らく「Naver V LIVE」だった。韓国ネット最大手NaverのアーティストSNS・ライブ配信プラットフォームで、BTSも日常配信でファンと交流し、莫大なトラフィックを生んでいた。

しかしこの構造はHYBE(Big Hit)にとって致命的だった。ファンの感情データ・購買意図・滞在時間という「ゴールド」が、すべてNaverの手に落ちるのだ。

2021年1月27日、Big HitとNaverは次のディールを発表する: Naverがbig Hitの子会社beNXに4,100億ウォン(約3.71億ドル)[3]を出資し49%の株式を取得。同時にNaver V LIVE事業をbeNXに譲渡(V LIVEの全機能・全ユーザーをWeverseに統合)。beNXをWeverse Companyに商号変更。

Big HitはNaverから数百億円を「もらいながら」、最大の競合プラットフォームを実質的に吸収した。2023年1月1日、V LIVEはサービス終了。世界のK-POPファン全員がWeverseに流入した。HYBEはK-POPのファンエコノミーを構造的に独占することに成功した。

意義: 「ファンの感情データを誰が持つか」が今後10年の音楽ビジネスの分水嶺になる。HYBEはこれを最も明確に実装した。通常は巨大プラットフォームに収益を奪われる側の音楽事業者が、プラットフォーム側を逆に吸収したという意味で、業界史上最も重要なM&Aの一つ。
🌐 エピソード4: 「Scooter Braunを呑み込んだ韓国企業」(2021年4月)

2021年4月、HYBEは米国の音楽マネジメント大手Ithaca Holdingsを10.5億ドル(約1,150億円)で買収[3][5]した。

Ithacaはジャスティン・ビーバーをスカウトした伝説のマネージャー Scooter Braun の会社で、当時の傘下にはジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデ、デミ・ロヴァート、そしてテイラー・スウィフトの旧マスター権を保有するBig Machine Label Groupが含まれていた。

この買収は K-POP業界・米国音楽業界の双方に衝撃を与えた。なぜなら「韓国の音楽事務所が米国の音楽メジャー級企業を買収する初の事例」だったからだ。これまでは「米国メジャー(UMG・SME・WMG)が世界の音楽を買い集める」という一方向だったが、HYBEは逆流を起こした。

買収後、HYBEは米国アーティストへの直接アクセス権・Big Machine Label Groupの楽曲カタログ(パッシブインカム)・米国流通網を一気に獲得。2021年11月のSoFi Stadium 4公演完売(33.3億円)はこの買収後に実現した。

意義: アジアのエンタメ企業が米国メジャーを買収するという「逆方向のグローバル化」。K-POPが単なる「輸出コンテンツ」から「業界の支配構造を変える勢力」になった転換点。
⚠️ エピソード5: 「兵役という最大のリスク — 60%の売上が消える日」(2022年6月-12月)

韓国は男性に約18-22ヶ月の兵役義務がある。2022年6月14日、BTSはYouTubeライブで「グループ活動を一時休止し、ソロ活動に移行する」と発表した。発表当日、HYBE株価は28%下落し、時価総額が約1日で約17億ドル(約1,900億円)蒸発した[3][5]

HYBEのCEOは2022年11月のアナリスト向け説明会で初めて公式に「BTSがHYBE売上の60-65%を占める」と述べた。これは「BTS不在のHYBEは構造的に売上が半減する」というリスクを認めるものだった。

2022年12月13日、Jinが最初に入隊。2025年6月11日に最後のJungkookが除隊するまで、約2年半のBTS不在期が続いた。この期間にHYBEが試みたのは、NewJeansの育成・米国アーティストのWeverse出店・メンバーソロ活動の最大化・SM Entertainment買収の試みと撤退(売却益1,000億ウォン超)だった。

結果として2024年年商は2.25兆ウォンと過去最高を更新。「BTS一極依存」を脱却する2年半は、HYBEをプラットフォーム企業として成熟させる時間になった

意義: 個別アーティストIPに依存しない「ファンエコノミーのインフラ」を持つことの戦略的価値を、最もリアルな形で実証した2年半。アーティストがいない間もWeverse MAU 940万が維持されたことが、復帰後の爆発的需要回復を可能にした。
⚔️ エピソード6: 「ミン・ヒジン vs HYBE — 子レーベルの反乱」(2024年4月-)

2024年4月22日、HYBEは子会社ADOR のCEOミン・ヒジン氏に対する内部監査を開始した。ADORはNewJeans(2022年デビュー)の親会社であり、ミン・ヒジンはその「クリエイティブ・ジェネラル」として知られていた。

HYBEの主張は「ミン・ヒジン氏がADORの経営権を奪い取り独立する準備をしていた」というもの。これに対しミン・ヒジン側は「HYBEがNewJeansのコンセプトをBELIFT LABのILLITで剽窃した」と反論した。

2024年8月、NewJeansのメンバーはWeverse上で「ミン・ヒジンCEO復帰を要求」とライブ配信。所属アーティストが事務所を公の場で批判する事態はK-POP史上稀な事例であり、HYBE株は前年比20%以上下落した。2026年2月時点でも法廷闘争は継続中。

意義: K-POPの「事務所中心モデル」における、クリエイター(プロデューサー)の独立志向と企業ガバナンスの間の構造的緊張。アーティスト・クリエイター・プロデューサーへの利益分配と意思決定権の設計が、IPプラットフォームの長期持続性を決めるという示唆。
🎉 エピソード7: 「2025年6月11日 — 7人が再びステージに集う日」

2025年6月11日、BTSの最年少Jungkookが陸軍兵役を完了し除隊した。2022年12月13日のJinの入隊から910日後、BTS 7人全員が再びアーティストとして揃った日である。

除隊の朝、京畿道楊州の陸軍部隊の前に、世界各国から推定5,000人以上のARMYが集結した。フィリピン・ブラジル・ドイツ・米国から「除隊巡礼ツアー」が組まれており、「アイドルの除隊式に世界中からファンが飛行機で集結する」という現象はK-POP史上前例のないものだった。

HYBE株は同日8%上昇。2025年通年売上は2.65兆ウォン(約19.9億ドル)と過去最高予測。BTSの完全復帰効果は2026年以降に本格化する局面を迎えている。

2年半のBTS不在を経て、グループ復帰効果は2026年以降に本格化する。Weverse上で940万MAUが維持されたこと、ARMYのオーガニックなコミュニティ活動が継続したことが、復帰時の爆発的需要回復を可能にした。「アーティストが活動していない期間こそ、プラットフォームとファンダムの真価が問われる」 — HYBEの2年半はそれを証明した。

意義: IPの休眠期間中もファンエコノミーが維持される最大のケーススタディ。デジタルプラットフォームとファンコミュニティの設計次第で、アーティストの兵役・引退・活動休止中でも経済圏が存続できることを実証した。

7つのエピソードが示すパターン

  1. ファンが「組織」として機能する設計: ARMYは地域別自治組織を持ち、Billboard投票・ストリーミングキャンペーンを自律的に運営した。「受け身のファン」から「能動的なマーケティング装置」への変換がBTSの規模を決定づけた
  2. プラットフォームを自社で持つ意志: Weverse構想は2019年に始まり、2021年のNaver V LIVE統合で完成した。「ファンのデータは自社に」という戦略的意志を、100億円規模の交渉で実現
  3. 逆方向のグローバル化: Ithaca Holdings買収は「アジアが欧米を買収する」という音楽業界の力学を変えた。BTSの文化的成功を経済的インフラに転換するアクション
  4. リスクをインフラ整備の機会に変える: 兵役という避けられない事業リスクを「BTS依存からの脱却」「プラットフォーム成熟」の時間に転換した経営判断
  5. クリエイターへの利益分配の設計が長期安定性を決める: ミン・ヒジン事件はマルチレーベル戦略の弱点を露呈。プロデューサー・アーティストへの意思決定権と利益分配の設計は、IPエコノミーの持続性を左右する

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    References — 数値の出典
  1. BritannicaBritannica
  2. Wikipedia (Hybe)Wikipedia
  3. Music Business WorldwideMusic Business Worldwide
  4. BillboardBillboard
  5. VarietyVariety
  6. SoompiSoompi
  7. AllkpopAllkpop
  8. Korea TimesKorea Times
  9. StyleCasterStyleCaster
  10. Digital Music NewsDigital Music News