QUANTS OVERVIEW · STRATEGIES
ISSUE 01 / 2026
💼 LTCM — キャパシティ・AUM
$10億の初期資本から$70億のAUM、$1,250億の想定元本へ。レバレッジが生んだ幻の巨体。
3行サマリ
- 初期資本$12.5億は当時のヘッジファンド史上最大の調達額。大手銀行、中央銀行、大学基金が「ドリームチーム」に資金を託した。
- 1997年に$27億を投資家に返還。「裁定機会に対して資金が過剰」という判断だったが、結果的にリスク吸収能力を自ら放棄した。
- 自己資本$47億に対して想定元本$1,250億(レバレッジ25:1)。微小なスプレッド利益をレバレッジで増幅する構造が、崩壊時の被害を何十倍にも増幅した。
AUM・レバレッジ推移
| 年 | 自己資本 | バランスシート | レバレッジ | 備考 |
| 1994/2 | $12.5億 | 約$200億 | 約16:1 | 運用開始。ヘッジファンド史上最大の初期調達 |
| 1995末 | 約$36億 | 約$500億 | 約14:1 | +43%のリターンで資本が急成長 |
| 1996末 | 約$51億 | 約$750億 | 約15:1 | +41%のリターン。投資家からの追加出資要望 |
| 1997末 | 約$47億 | 約$1,250億 | 約25:1 | $27億を投資家に返還。にも関わらずレバレッジが急上昇 |
| 1998/8末 | 約$23億 | 約$1,000億 | 約43:1 | 損失で自己資本が半減。レバレッジが制御不能に |
| 1998/9/22 | 約$4億 | — | — | 崩壊直前。FRB介入へ |
資金返還の判断ミス
1997年の$27億返還 — 傲慢の象徴
| 当時の論理 | 事後的評価 |
| 「裁定機会が縮小している。過剰な資本はリターンを希釈する」 | 裁定機会の縮小は正しい認識だったが、資本返還ではなくレバレッジ削減が正解だった |
| 「我々のモデルは$47億で十分に機能する」 | $47億の自己資本で$1,250億の想定元本。モデルの正確性への過信 |
| 「投資家に対する誠実さ」とも主張 | 実態は「自分たちの取り分を増やすため」(パートナーの利益配分比率が上昇) |
⚠️ 資本返還の逆説
資本を返還した結果、リスク吸収能力が低下。同じリターンを維持するためにレバレッジが16:1から25:1に上昇した。これが1998年の崩壊を決定的にした。もし$27億を保持していれば、1998年の損失に耐えられた可能性がある。
レバレッジのメカニズム
なぜ高レバレッジが必要だったか
- 微小なスプレッド:収束取引の利益は1取引あたり数ベーシスポイント(0.01%単位)
- レバレッジで増幅:数bpの利益を25倍にすれば、自己資本ベースで年率40%のリターンに
- 「安全」の論理:個々の取引は「ほぼ確実に収束する」ので、レバレッジは「リスク」ではなく「効率」の問題だと考えた
- 論理の欠陥:「ほぼ確実」と「確実」の差が、レバレッジにより致命的な結果をもたらす
投資家構成
| 投資家タイプ | 特徴 | 問題点 |
| 大手投資銀行 | Merrill Lynch、Goldman Sachs等。自己勘定でも出資 | LTCMのポジションを把握し、類似取引を行っていた(フロントランニング疑惑) |
| 中央銀行 | イタリア中央銀行等が出資 | 公的機関がヘッジファンドに出資する是非が後に議論 |
| 大学基金 | ハーバード大学基金等 | 「ドリームチーム」の権威に依存した投資判断 |
| パートナー個人 | Meriwether、Scholes、Merton等の個人資産 | 個人資産の大半をファンドに投入。崩壊で個人的にも壊滅的損失 |
Medallionとの対照的なキャパシティ管理
| 比較軸 | LTCM | Medallion |
| キャパシティの認識 | 「裁定機会が縮小」→ 資本を返還しレバレッジを増加 | 「キャパシティに限界がある」→ AUMをキャップ |
| レバレッジ | 25:1。利益を増幅するための手段 | 低レバレッジ。短期取引で高回転率 |
| 資本返還の意味 | 自分たちの取り分を増やすため | アルファを希釈しないため |
| 結果 | 崩壊 | 35年以上の持続的成功 |
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