2007年8月6日–10日 | クラウデッド・トレード / 強制清算
2000年代半ば、統計裁定(スタットアーブ)は黄金期を迎えていた。多くのクオンツファンドが類似のファクターモデル(バリュー、モメンタム、リバーサルなど)を使用し、同じシグナルで同じ銘柄をロング・ショートしていた。ファンド間の戦略の相関は高まっていたが、各ファンドは自社のアルファが独自であると信じていた。
同時に、サブプライムローン危機が進行中であった。2007年7月にはBear Stearns傘下の2つのヘッジファンドが破綻し、クレジット市場全体に不安が広がり始めていた。
8月第1週、クレジット市場での損失を被ったとされるマルチストラテジーファンド(Goldman Sachs Global Alpha、もしくはCitadel傘下のファンドと推定)が、株式ロング/ショートのポジションを大量に清算し始めた。この清算は、クレジットポートフォリオの損失をカバーするための資金捻出が目的だったと見られている。
最初のファンドの清算により、広く保有されていたロングポジション(割安株)が売られ、ショートポジション(割高株)が買い戻された。この結果、同じファクターを使う他のクオンツファンドのポジションも同時に逆行。ファクターリターンが25標準偏差を超えるような異常値を記録した。
損失を受けたファンドはリスク管理ルールに基づいてデレバレッジ(レバレッジ削減)を実行。これがさらなる売り圧力を生み、負のスパイラルが加速した。
週後半にかけて最悪期を脱し、一部のファンドは回復に転じた。Renaissance TechnologiesのMedallion Fundは一時的に損失を被ったものの、短期間で回復。一方、Goldman Sachs Global Alphaは2007年通年で-40%を記録し、その後閉鎖に至った。
クオンツ・ショックは、多数のファンドが同一戦略を採用する「クラウデッド・トレード」の危険性を初めて大規模に実証した。個々のファンドのリスク管理が健全でも、業界全体で見ればシステミックリスクが蓄積されていた。
平時には流動的な大型株ペアトレードが、全参加者が同時にエグジットする局面では流動性が蒸発する。LTCM危機と同じ教訓が、株式市場のより流動的なセグメントでも再現された。
クオンツ・ショックは、レバレッジの巻き戻しがいかに速く市場全体に波及するかを示した。翌年の2008年金融危機は、この構造がクレジット市場・住宅市場で桁違いのスケールで発生したものと理解できる。
| 人物 | Cliff Asness(AQR)、Jim Simons(RenTech) |
|---|---|
| 企業 | AQR Capital、Goldman Sachs、Renaissance Technologies、DE Shaw |
| 関連エピソード | LTCM破綻(1998年) — 構造的に類似 / COVID-19クオンツショック(2020年) — ファクター崩壊の再来 |
「自分のポジションがユニークだと思っていても、業界全体では同じ賭けをしている可能性がある。」クオンツ・ショックは、個別ファンドのリスク管理を超えた「システミック・クラウディング・リスク」という概念を確立し、ポジション集中度の監視が不可欠であることを示した。