2020年2月–4月 | レジームシフト / ファクター崩壊
2020年2月中旬まで、米国株式市場は史上最高値圏にあった。COVID-19は中国で拡大していたが、グローバル市場への影響は限定的と見られていた。クオンツファンドの多くは、過去のデータに基づくモデルで運用しており、パンデミックという前例のない事象は訓練データに含まれていなかった。
特に、株式ロング/ショート戦略は「バリュー」「モメンタム」「クオリティ」等のファクターに依拠しており、これらのファクターの有効性は過去数十年の市場データで検証されていた。しかし、経済活動が突然停止するという事態は、ファクターの前提を根本から覆すものだった。
2月24日の週から米国株式市場が急落を開始。イタリアでの感染爆発がトリガーとなり、パンデミックのグローバル波及が現実として認識された。S&P 500は6営業日で12%下落し、1週間でのドローダウンとしてはリーマンショック以来最大となった。
3月に入ると下落はさらに加速。3月16日にはダウが-2,997ポイント(-12.9%)と、1987年のブラックマンデーに匹敵する1日の下落率を記録。S&P 500は2月19日の高値から23営業日で34%下落し、史上最速の弱気相場入りとなった。VIXは3月16日に82.69の史上最高値を記録した。
クオンツモデルの基盤であるファクターが次々と崩壊した。バリューファクターは、割安株(航空・エネルギー・ホスピタリティ)がパンデミックの直撃を受けてさらに下落。モメンタムファクターは急激なトレンド反転で機能不全。リスクパリティ戦略は、株式と債券の相関が崩れ(同時に売られる局面が発生し)、前提が崩壊した。
FRBの大規模金融緩和と財政出動により、株式市場は3月23日を底に急速に回復。しかし、回復はテクノロジー株に集中し、バリュー株の回復は大幅に遅れた。この非対称的な回復が、バリューファクターに依拠するクオンツファンドの苦境を長期化させた。
COVID-19ショックは、過去のデータに存在しないレジームシフトが発生した時、データ駆動型モデルが機能しなくなるという根本的なリスクを示した。パンデミックによる経済活動の突然の停止は、どのヒストリカルデータにも含まれていなかった。
Medallion Fundが+76%を達成する一方、同じRenaissance Technologiesの外部ファンド(RIEF、RIDA、RIDGE)が大幅なマイナスとなったことは、両者の構造的な違いを浮き彫りにした。Medallionは短期・高頻度の戦略を中心とし、ポジションサイズが小さく機動的な調整が可能だった。一方、外部ファンドは中長期ファクター戦略が中心で、運用資産の大きさから機動性に制約があった。
株式と債券の逆相関を前提とするリスクパリティ戦略が、両資産が同時に売られる局面で機能不全に陥った。リスクパリティの前提条件と限界が再認識された。
| 人物 | Jim Simons(RenTech)、Cliff Asness(AQR)、Ray Dalio(Bridgewater) |
|---|---|
| 企業 | Renaissance Technologies、AQR Capital、Two Sigma、Bridgewater Associates |
| 関連エピソード | クオンツ・ショック(2007年) — ファクター崩壊の前例 / 利上げサイクルとマクロファンド復権(2022年〜) — COVID後の戦略シフト |
「過去のデータに存在しない事象に対して、データ駆動型モデルは構造的に脆弱である。」COVID-19ショックは、クオンツモデルが「既知の不確実性」には対処できても「未知の不確実性」には無力であることを示した。同時に、Medallion Fundの突出した成績は、短期・高頻度・小規模ポジションという構造が極端な市場環境での生存に有利であることを証明した。