2022年〜現在 | グローバルマクロ / 金利環境転換
2008年の金融危機以降、主要中央銀行はゼロ金利政策と量的緩和(QE)を長期にわたって継続した。この環境はグローバルマクロ戦略にとって逆風だった。金利差が縮小し、中央銀行の政策が市場を抑制することで、マクロ的なトレンドが生まれにくかったためである。
2010年代、マクロ系ヘッジファンドの多くは冴えない成績に終始した。Bridgewater Pure Alphaも、2010年代後半はベンチマークを下回る年が続いた。業界では「マクロは死んだ」という見方が広がり、資金はマルチストラテジーや株式ロング/ショートに流出していた。
一方、2020年のCOVID-19対応で各国政府は大規模な財政出動を実施。供給制約と需要刺激が重なり、2021年後半からインフレが加速。FRBは2022年3月に利上げを開始し、歴史的な速度で政策金利を引き上げた。
FRBは2022年3月から12月にかけて7回の利上げを実施し、政策金利を0%→4.5%に引き上げた。S&P 500は-19.4%、NASDAQ Compositeは-33.1%と大幅に下落。債券市場も歴史的な暴落を記録し、伝統的な60/40ポートフォリオは過去最悪級の成績となった。
この環境でグローバルマクロ戦略が躍進した。金利のディレクショナルトレード(金利上昇に賭ける)、通貨トレード(ドル高に賭ける)、コモディティトレード(エネルギー・穀物の上昇に賭ける)が収益源となった。
2023年はFRBが5.5%まで追加利上げを行った後、高金利を維持。Citadelは+15.3%、DE Shawは+18%と引き続き好調。マルチストラテジーファンドの構造的優位性が持続した。
2024年に入り、利下げ期待が浮上するもインフレの粘着性により金利は高止まり。マクロ戦略は引き続き金利・為替のボラティリティから収益を獲得。一方で、株式ロング/ショートはAI関連銘柄への集中度が高まるなど、新たなクラウディングリスクが指摘されるようになった。
ゼロ金利環境ではマクロ戦略のアルファ源泉が枯渇し、金利のある世界ではマクロ的なディスパージョン(分散)が拡大して収益機会が増える。この構造的な関係が2022年の実績で実証された。「最適な戦略は市場環境に依存する」という当然の原則が、10年の歴史で裏付けられた。
Citadelが+38.1%を達成できた背景には、マクロ・株式・クレジット・コモディティ・クオンツの全戦略を横断的に運用し、最も機会のある領域にリソースを動的に配分できるマルチストラテジー構造がある。単一戦略ファンドが環境変化に苦しむ中、マルチストラテジーの分散と柔軟性が競争優位として機能した。
金利上昇はグロース株に不利に働き、バリュー株の相対パフォーマンスが改善。2010年代を通じて低迷していたバリューファクター(いわゆる「Value Winter」)が終焉し、AQR等のファクター投資ファンドにとって待望の追い風となった。
| 人物 | Ken Griffin(Citadel)、Ray Dalio(Bridgewater)、Cliff Asness(AQR)、Israel Englander(Millennium) |
|---|---|
| 企業 | Citadel、Bridgewater Associates、DE Shaw、AQR Capital、Millennium Management、Renaissance Technologies |
| 関連エピソード | COVID-19クオンツショック(2020年) — 直前のファクター崩壊 / クオンツ・ショック(2007年) — 戦略集中リスクの前例 |
「市場環境が変われば、勝者も変わる。」2022年以降のマクロファンド復権は、10年間の低迷の末に到来した。特定の戦略が「死んだ」と宣言されるほど不人気になった時こそ、次の環境変化で復活する可能性を秘めている。クオンツ運用においては、戦略の分散とレジーム変化への適応力こそが長期的な生存の鍵である。